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Ado所属事務所社長が明かす世界的成功の要因「Adoと目的地は一緒でも目的は異なる」

武井保之ライター, 編集者
Ado初の世界ツアー『Wish』のステージ(画像提供:クラウドナイン)

今年2〜4月にかけて初の世界ツアー(11カ国14都市)を成功させ、華々しい世界デビューを飾ったAdo。歌い手やボカロPというネット音楽文化の騎手は、日本をあっという間に飛び越えて世界に出た。彼女とともに世界に向かう所属事務所のクラウドナインの千木良卓也社長に、その想いを聞いた。

飛び抜けて目立っていた16歳の女の子

千木良氏がクラウドナインを創業したのは2019年2月。20代は美容業界で会社経営をしていたが、30歳でHigh Speed Boyに入社し、GReeeeNをはじめアーティストのマネジメントを担当。34歳で独立し、ゼロからマネジメント会社を立ち上げ、音楽業界で再スタートした。

Adoとの出会いはその年の8月。当初の所属アーティストたちとの話から、すごい子がいると紹介されたなかの1人であり、飛び抜けて目立っていたという。彼女が16歳のときに顔を合わせ、当初はライブ制作の手伝いをはじめたが、コロナ禍を経て新たな目標を掲げて翌年4月に所属し、ボカロ文化をひっさげてメジャーシーンに乗り込んだ。

当時のアーティスト発掘のポリシーを聞くと、「声を覚えるか」と明確に答える。

「時期にもよりますが、当初は多くの曲を聴いているなかで、声を覚えた子ですね。歌い方や曲作りの上手い子はたくさんいますけど、たまに『あれ、この声は聴いたことあるぞ』って気づく子が出てくるんです。それが続くと、その子の名前を覚える。創業当初はそれを一番大事にしていました」

ボカロ文化を背負ってメジャーシーンへ

そこからの二人三脚での音楽制作を進め、いくつかのブレイクポイントを経て、NHK紅白歌合戦に出場する国民的アーティストへと成長していく。最初のブレイクポイントは「うっせぇわ」だろう。ネットで話題になり、テレビへと波及。リリースからじわじわと時間をかけて波が大きくなっていった。

Adoの成功の最大の要因を聞くと、千木良氏はこう語る。

「ボカロ業界をメジャーに広げると宣言した彼女にボカロ業界が協力してくれたことです」

メジャーにボカロ業界を持っていきますと宣言した17歳の女の子に、そっちの世界の人たちがわーっと集まって応援してくれて、歴代の歌い手たちがみんなAdoの曲をカバーして後押ししたんです。

その裏には、それまでありえなかったメジャー曲のインストを無料で展開したことや、コロナという時世などの影響もありました。そこから『うっせぇわ』の動画再生が伸びはじめました。そのあとインフルエンサーがカバーし、テレビで取り上げられるようになっていきました。ブレイクポイントにボカロ業界、インフルエンサー、メディアって順という時差と段階がありましたね」

そこからはドラマや映画、CMなどのタイアップが続き、ボカロ文化を背負うAdoを世の中が大きくしていった。

アーティストの世界進出の先に目指すこと

そして、メジャーデビューからわずか4年で11カ国14都市の世界ツアー『Wish』を実現し、成功させた。日本をあっという間に飛び越え、世界へと向かうAdoはこれまでメディアで、日本の歌い手やボカロPなどネット音楽文化が大好きで、それを世界中の1人でも多くの人に知ってもらいたい、と話している。

千木良氏に世界を目指すうえでの目的地を聞くと、「Adoと僕では目的地は一緒でも目的は少し違います」と答える。

「彼女と私では目指す場所が一緒でも目的は違います。彼女の目的はボカロ文化を世界に広めることであり、それ以外にもたくさんあるので詳しくは本人に聞いてください。私も世界進出することから先の目的はたくさんありますが、ざっくりとはアーティストの夢を叶えたい、日本の景気を良くしたい、世界に日本語を増やしていきたい、ですかね。

今後デジタル上の影響はさらに大きくなっていくと思います。

現在リアルな世界では、その場所がどこかということと、どの通貨を使っているかで、国を判別しています。土地がないデジタル上で仮想通貨を使っている場合、その場所を判別する方法は言語になると思っています。メタバースでは中心となっている言語が何かによって、リアルのどの国とリンクするかが決まります。そう考えた場合、メタバースやデジタルがさらに発展して、リアルな経済に対していま以上に影響を持つ時代に、どれほど日本語が使われているかは非常に大事になってくると思います。

教育で他国の方に日本語を話してもらうのは非常に難しい。ですが私たちエンタメ業界は一発で海外の方に日本語を学んでもらう可能性を秘めているんです。韓国ドラマやアイドルが流行したとき、日本でも韓国語を話せる人が増えました。音楽やエンターテインメントにはその力があります。私たちエンタメ業界が出来ることは、エンターテインメントで世界に1人でも多く日本語を話す人を増やすことです。そのために世界から日本はカッコいいと思われないといけない」

そんな千木良氏が経営者として大事にしていることは「たくさんある」という。

「世界に日本をかっこいいと思わせることが出来るような会社にすること、誰も成し遂げていないことをすること、社員とアーティストの夢を叶えること、絶対にブレないこと、自分の想いを共有すること、仲間を信じることなど、たくさんあります」

アーティスト本人よりも夢はかなうと信じている

創業から5年で会社を大きく成長させ、現在は若くして日本音楽制作者連盟の理事を務める千木良氏。これまでの仕事における失敗を聞くと、それまでと口調が変わる。

「大きな失敗をできないのが芸能マネジメント会社じゃないですかね。私たちは人を預かっているわけですから、大きな失敗はその子の人生を変えてしまうことになる。

18歳の子が過ごした1年間のリトライは永遠にできない。今後も誰かの人生を変えてしまうような失敗をするつもりはありません。

いま所属アーティスト20人以上いますけど、その子たちの夢はかなうって世界で一番強く思っています。本人たちより私のほうが強く信じている自信があります(笑)」

そんな千木良氏の思いとビジョンに共鳴している所属アーティストたちが、Adoに続いて世界に羽ばたく日は遠くないことだろう。日本音楽業界に地殻変動を起こしている若き社長とマネジメント事務所のこれからに注目していきたい。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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